【医師が解説】思春期のワキガは一時的って本当?
- 公開日: 2023/04/04 更新日:2023/04/27
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多くのワキガ症状は「思春期」に出現します。
「思春期」と言うと、多くの方が中学生くらいの年齢をイメージされるでしょうが、実際にワキガが発症するのは10歳前後が多いようです。現代の先進国では栄養状況の変化などによって思春期を早く迎える子どもが増えていて、日本もその例外ではありません。
ワキガという概念さえ持たない子どもが、自分の臭いに気づくのは困難です。「子どもがワキガを発症した」ことに気づいてあげられるのは、やはり親。「気づいている様子がない本人」に手を差し伸べられるのは、身近な家族をおいてほかにありません。
子どもがワキガのせいで嫌な思いをしたり、のびのびと暮らせないことを避けるためにも、まずは身近な家族がワキガに対する正しい知識と対処法を身につけておくのは大切なことです。
この記事では「思春期とワキガの関係」を、ワキガの基礎知識、家庭でできる対策、病院での治療の紹介を交えて、ワキガの専門医の視点から解説します。
執筆者 綾部 誠
福岡美容皮膚科あやべクリニック院長。日本美容外科学会認定美容外科専門医。東京医科大学医学部を卒業後、久留米大学病院の形成外科医師として勤務。1997年に福岡美容皮膚科あやべクリニック開院。美容外科医として30年以上にわたり勤務した経験を活かし、情報発信を行っている。
目次
思春期のワキガは一時的なもの?
まずお伝えしたいことは、ワキガは「病気」ではなく「体質」だということです。
「体質」は両親から受け継いだものですから「治る・治らない」といった性質のものではありません。そのため、「一時的にワキガになったけど治った」ということは通常では考えられません。
とはいえ、体質が成長や生活環境に影響を受けるのもまた事実です。ワキガと体質の関係を知り、正しく対処することで「症状の緩和」に繋げることはできるでしょう。
そもそもワキガとは?

ワキガの原因はワキの毛根にある「アポクリン腺※1」にあります。アポクリン腺から出る「汗」を肌の常在菌が分解することでワキガ特有の臭いは発生します。
「ワキガ体質」とは、アポクリン腺の数が多く大きいことであり、子どもには優生遺伝をすることがわかっています。そのため、両親の片方がワキガであった場合に50%、双方がワキガであった場合は80%の確率で子どもがワキガを発症します。
しばしば「ワキガ」と「多汗症」は混同されますが、両者は別のものです。多汗症とはエクリン汗腺と呼ばれる組織が分泌する「臭いのない通常の汗」が多い症状のことを指しますので、「ワキガの臭い」に直接的な関わりはありません。
また、人にはそれぞれの「体臭」がありますので、ワキの臭いすべての原因が「アポクリン腺」にあるわけではないことも「ワキガ」を知る上では大切なポイントです。
※1 アポクリン腺
出典元:National Library of Medicine Histology, Apocrine Gland
思春期に急にワキガになる理由
思春期に活発に分泌される「性ホルモン」がアポクリン腺の分泌を活発にするため、ワキガを発症したと感じます。その時期は男女がそれぞれの性別らしい体に変化しはじめるタイミングと重なっており、女性のほうがいくぶん早く発症することも確認されています。
臭いが強まったタイミングで「突然ワキガになってしまった」と感じてしまうことがあると思いますが、ワキガは遺伝的な体質が表に出てきた症状であり、ウイルス感染や生活習慣などの後発的な原因で発症するものではありません。
思春期のワキガは自然に治るの?
体質に原因がある以上「自然に治る」ことは考えられません。
ただし、人の嗅覚は「敏感であり鈍感である」という相矛盾する性質を持っていますので、最初は敏感に感じていた臭いも時の経過で「気にならなくなる」ことは考えられます。
もしくは思春期を抜けることで性ホルモンの分泌量が安定し「症状が落ち着く」ことはあるかもしれません。いずれにせよ「治った」と感じたのだとしたら、そもそも「軽度のワキガ症状」であったと考えられます。
思春期のワキガが気になったら?家庭でできる対策
「体質」に原因がある以上「根治」するのが難しいワキガですが、臭いの「軽減」に目を向けるのであれば話は別です。生活習慣を見直すことで一定の効果が得られることも認められています。
よほど重い症状でない限りは、自己対策から始めるのが「ワキガ治療の常道」です。生活に大きな負担をかけずに症状を抑えられるのであればそれに越したことはありません。
対策する上で、重要なポイントを紹介します。
対策①食生活を改善する
アポクリン腺の分泌物に含まれる脂質やタンパク質の摂取を控えることで過度な分泌を防ぐことを目的とします。
揚げ煎餅やポテトチップスなどのスナック菓子、肉類や揚げ物などの油脂の多い食事をなるべく避け、野菜や魚介類をメインに据えた和食中心の食生活に置き換えることで臭いの軽減が期待できます。
またニンニクやニラ、ネギなどには臭い成分「硫化アリル」が含まれ、体臭を強める恐れがあります。できる限り控えておきましょう。
対策②十分な睡眠をとる
「ストレス」はアポクリン腺の分泌を活性化します※2。寝不足によるストレス状態はワキガ症状が促進する原因になりますので、規則正しい十分な睡眠を心がけましょう。
また、睡眠が足りないと代謝機能も落ちますので、毒素や老廃物が排出されにくくなり「体臭」が強まる恐れもあります。
※2 「ストレス」はアポクリン腺の分泌を活性化します
出典元:Psychological sweating: a systematic review focused on aetiology and cutaneous response
対策③ストレスを溜め込まない
適度な運動を習慣にして定期的にストレスを発散させたり、規則正しい生活で健やかな心身を保つことは、ワキガ症状を抑えるためには大切な心がけです。リラックスできる家庭環境や家族とのコミュニケーションも、悩みの解決や安心感によるストレス軽減に繋がるでしょう。
対策④清潔にする
アポクリン腺の分泌物をワキに留めず、こまめに取り除くことで臭いを抑えます。もっとも直接的な方法で、取り組んだ分だけ効果も期待できる方法と言えます。
具体的な方法は、次の通りです。
・汗をかいたら、その都度デオドラントシートなどで拭き取り制汗剤を使う
・衣服が汗で湿ってしまったときのためにインナーウエアの替えを用意しておく
・寝汗をかいた朝や、運動後にはシャワーを浴びる
・湯船に浸かり、体を温めることで毛穴に詰まった分泌物や老廃物を落とす
制汗剤やデオドラントの正しい使い方
軽度のワキガ症状に対しては制汗剤やデオドラントも有効です。ただし、使い方を誤れば十分な効果を得られないことがあるので、含有成分に応じた適切なタイミングと用法を理解して活用することが大切です。
外出前にはクリームやスプレーを、外出先では小型のロールオンやスティックなど、シチュエーションに応じて使いやすい製品を選べるのも利点です。
制汗剤・デオドラントを選ぶポイント
ほとんどの製品のパッケージには「制汗」や「殺菌」、「消臭」などの用途が大きく書かれていますが、どういった成分が含まれているのかを知れば、より症状に合った製品を選ぶことができます。
薬局やドラッグストアなどで流通している制汗剤・デオドラントに含まれる主な成分を次にまとめました。制汗効果を優先するなら「クロルヒドオキシアルミニウム」、肌が敏感な方には「焼ミョウバン」など、製品選びの指標としてお役立てください
・クロルヒドオキシアルミニウム
現在もっとも広く使われている制汗成分。汗腺の水分に反応してゲル状になり、汗の出口にフタをするという効果がある。元は「塩化アルミニウム」という成分であったが、効果は高いが肌への刺激が強めであることから改良を加えられて誕生した。継続して使用することでより高い効果が期待できる。
・焼ミョウバン
昔から使われている定番の制汗成分。汗腺の出口を「収れん」させる働きで汗の分泌を抑える。汗と反応すると酸性に傾くため、殺菌作用も期待できる。制汗効果はさほど高くはないが、天然の鉱物で食品添加物としても使用される成分なので安全性はお墨付き。肌への刺激が少ないのがメリット。
ほとんどの製品では上記の制汗成分に加え、殺菌作用のある「イソプロピルメチルフェノール」または「β−グリチルレチン酸」を配合して制汗・殺菌効果を得ています。
制汗剤やデオドラントはワキガの根本的な原因改善を目指したものではなく、日常的に繰り返し使用することが前提となりますので、ランニングコストとして無理のない価格帯のものを選ぶと良いでしょう。
制汗剤を使うタイミング
制汗剤は「皮膚を清潔にしてつかう」ことが大前提です。
消臭効果のあるものでも、すでに汗や匂いが出ている状態では十分に効果を発揮することはできません。
ご家庭ではお風呂上がりに使うのが最も効果的ですし、外出先ではアルコール綿や殺菌作用のあるデオドラントシートでしっかりと汗を拭き取ってから使用するといいでしょう。
病院でできる思春期のワキガへの治療法
未成年だからといって受けられない治療は特にはありません。
とは言え、治療法によっては複数回の通院が必要であったり、治療の跡が残ってしまうもの、術後の生活に制限がかかるものもあります。次に主な治療法とその特徴をまとめました。学校生活と両立しながらの治療を検討される際の事前情報としてお役立てください。
外用薬
制汗剤やデオドラントと同じく「汗の分泌を抑える」「雑菌の繁殖を抑える」効果がある外用薬を処方してもらう方法です。
処方薬であるため、市販品に比べれば効果の強さが期待できますが、あくまで対処療法の域を出ることはありません。軽度のワキガ症状に対しての軽減が期待できるでしょう。
制汗作用がある外用薬では、保険が適用される「エクロックゲル」「ラピフォートワイプ」の処方が近年始まりましたが、あくまで「多汗症」に対する効果が認められてのことです。これらの処方薬は一回の処方につき1千〜2千円程度が相場です。
ボツリヌストキシン注入
ワキに注射針を刺し、ボトックス(ボツリヌス毒素)を注入する方法です。
1回の注射で4〜6カ月の制汗効果が期待できます。入院、通院を必要としないため、学校や部活を休む必要はありません。治療当日も10分ほどの短時間で受けられ、傷跡を残さない手軽さはメリットです。費用の相場は2万円程度。
汗を分泌する信号を出す「アセチルコリン」という物質を抑えることにより、アポクリン腺の活動を止めることでワキガ症状を緩和します。ただし、ワキガ症状の根本治療とはなりません。軽度のワキガ症状の方、ワキの汗を減らしたい方に向いた治療法です。
ミラドライ
多汗症治療の認可を受けている「ミラドライ」という機器をワキガ治療に転用した施術方法です。
1週間ほど施術部に腫れや痛みが残りますが、切開が不要なので当日からシャワーを浴びられます。通院も2〜3回程度ですみますので、通学しながらの治療が可能です。多汗症の症状改善が望め、永続的な臭いの軽減効果が期待できるメリットがあります。費用の相場は20万円程度です。
電子レンジの原理であるマイクロ波をワキに照射してエクリン汗腺とアポクリン腺を破壊しますが、表皮からまんべんなく照射する施術方法なので「アポクリン腺」を選択的に破壊することには向きません。また、1回の施術で臭いをゼロにするのは難しいことがデメリットとして挙げられます。中〜重度のワキガ症状に向いた治療法です。
切開による手術
「剪除法」と呼ばれるワキガ治療の最もスタンダードな手法です。ワキの下を切開して医師の目視下でアポクリン腺を取り除きます。
保険適用が認められる唯一の治療法で、重いワキガ症状であっても永続的かつ大幅な改善が見込めるメリットがあります。費用の相場は保険適用で5万円程度です。
ただし、メスで切開するので必ず傷跡が残ってしまう点と、術後に「タイオーバー※3」と呼ばれるガーゼを用いた圧迫固定を1週間、そこからさらに術後2〜3週間は腕を上げる動きも禁止されるなど、生活に厳しい制限がかかる点がデメリットです。夏休みなどの長期休暇を丸ごと治療に充てなければならず、安静を守れなかった場合には一生傷跡が残るリスクがありますので、学校へ通う子どもが受けるには少々過酷であると言わざるを得ない治療法です。
効果が高く費用も抑えられる反面「思ったよりも大変」「こんなはずではなかった」といった後悔も多く聞かれるので、覚悟を持って治療に望める、重度のワキガ症状を抱えた大人の方に向いた治療法と言えます。
※3 タイオーバー
出典元:simple and rapid method of repeated tie over dressing
ビューホット

「ビューホット」は極細の針先に高周波を流してアポクリン腺を破壊する「ワキガ専用の治療機器」です。
切開が不要で周りの組織へのダメージが少なく、治療の跡は1カ月ほどでほぼ消失します。施術の翌日からは部活動での運動も再開できますので通学しながらの治療も容易です。照射レベルや深さを変えられるのでアポクリン腺だけを狙って施術できるのがメリットで、永続的な症状改善が見込めます。費用の相場は30万円程度。
デメリットとしては、重度のワキガ症状では1回の施術で臭いをゼロにするのは難しいことと、施術者の熟練度によって治療効果に差が出てしまうという2点が挙げられます。中〜重度のワキガ症状に向いた治療法です。
病院でワキガを治療した方がいい場合とは?
メスや注射を使った治療や、費用のかかる保険適用外の治療をせずとも、家庭の対策でワキガ症状を抑えられるのであればそれに越したことはありません。ただ、鼻を近づけなくても匂いがわかるようなレベルの症状となれば、病院での治療しか道がないのが実情です。
子どものワキガ治療と聞くと成長後に起こる「再発」を心配される声もよく聞かれますが、取り組んだ治療が無駄になることはありません。学校生活や人間関係に支障をきたしてしまう前に、速やかな一手を打つことをおすすめします。
子どもがワキガかもと悩んだら病院に相談しよう

家族から見てワキガ症状が明らかな場合は迷わず専門医に相談しましょう。
誰しも自分の臭いにはあまり敏感にはなれませんし、家族ですら客観的な判断を下すのは決して簡単ではありません。そんなときにこそ、多くのワキガ症状と向き合ってきた専門医を頼りにしてください。積み上げられた経験と知見は必ずや個々の症状とライフスタイルに合った最適な治療法を探る手助けとなるはずです。
結果的に医療機関での治療を受ける必要がなかったとしても、多くのワキガ症状と向き合ってきたスペシャリストに相談することで悩みを解消し、安心を得られるメリットは大きいものです。
たとえば私のクリニックの話をするならば、国内最大級の通算2,000例を超えるワキガ症状を「ビューホット」で治療してきた実績があります。その全てのカウンセリングと施術を院長である私自身が行ってきましたので、今も子どもから大人の方まで多くの方に安心して治療を受けていただいています。
子どものワキガ治療の最善の道は、それぞれの子どもの「年齢」、抱える「症状の強さ」、運動習慣をはじめとする「生活スタイル」に適した「家庭にとって無理のない治療法」を専門医とともに探り、進めていくことだと私は考えています。
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