アポクリン汗腺とは？

アポクリン汗腺とは？

美容外科専門医 綾部 誠

【公開日】2022/06/27

皆さんこんにちは。美容外科専門医として25年以上の経験をもつあやべクリニック院長の綾部です。
今回は、ワキガに大きく関わっている「アポクリン汗腺」について医学的根拠に基づき皆さまに解説いたします。

アポクリン汗腺は英語でapocrine sweat glandといいます。“apocrine”は“apo（＝離れる）”とギリシャ語の“krinein（＝分離する）”の語源に由来します。
頭髪と眉以外の毛が存在する部位にある汗腺で、そこから出る汗がワキガの原因となります。汗そのものは無臭ですが、皮膚常在菌に分解されることで独特のにおいが発生します。

出典：
“apocrine”. The New Oxford American Dictionary (3 ed.)

アポクリン汗腺の分布

アポクリン汗腺は、外耳道、まぶた（モル腺として）、腋窩（わきのした）、乳首と乳輪、会デリケートゾーンなど、頭髪と眉毛以外の毛が存在する特定の部位に存在します。太い毛が生じる毛穴の中に開口していて、サイズは800μm、管腔の直径は80～100μmと肉眼で確認できるほどの大きさです。

乳幼児期には全身に存在し、やがて入れ替わり、ごく限られた部位に残ります。しかし、アポクリン汗腺が全身にあっても、乳幼児期にワキガの独特なにおいを感じることはありません。
これは、アポクリン汗腺が性ホルモンと深く関わっていて、思春期以前には活動していないためです。思春期になると性ホルモンが急増しはじめ、汗腺の大きさが変化して機能が発揮されるようになります。

また、腋窩（わきのした）のアポクリン汗腺は、女性よりも男性のほうが多いといわれます。さらに、ワキガの人はそうでない人に比べてサイズが大きく、深部にまで存在し、数も多いと報告されております。

出典：
「Apocrine Gland – an overview | ScienceDirect Topics」
「Difference between Apocrine and Eccrine sweat glands」
秦 維郎/編「腋臭症の治療」克誠堂出版，1998年5月

発汗の原因と分泌物の成分

発汗には、温熱性発汗、味覚性発汗、精神性発汗の3種類があります。
アポクリン汗腺による発汗は、交感神経のアドレナリンがつかさどっていて、興奮したときや人前で緊張したときなどの情緒刺激によって出る精神性発汗です。

分泌様式は、細胞自体がちぎれることによって分泌物となる断頭分泌です。細胞の内容物も一緒に分泌されるため、汗にはタンパク質と脂質、糖、鉄、アンモニアが含まれます。においはなく、乳白色で黄や赤、白の色調を帯びることがあり、pHは6～7.5と弱酸性です。
また、毛穴の中には、アポクリン汗腺とともに皮脂を分泌する皮脂腺が開口しているので、分泌物にも皮脂が混ざっており、“脂汗”とも呼ばれるように粘性が高いという特徴があります。

この汗が皮膚表面に出ると常在菌（特にコリネバクテリウム属の菌）により分解され、特徴的なにおいを発生。これが腋窩（わきのした）で生じるのがワキガです。脇毛があると湿度・温度が上昇し、菌の繁殖が活発になり、においも強くなります。

また、外耳道に存在するアポクリン汗腺の分泌物は耳垢となり、外耳を潤滑・清潔にし、細菌や真菌の感染から保護すると考えられています。さらに、モル腺（まつ毛の根元にある汗腺）は、オランダの眼科医Jacob Anton Moll（1832-1914）にちなんで命名されたもので、 毛様体腺とも呼ばれます。モル腺からの汗は隣接するまつ毛をしなやかに保つために分泌されています。

出典：
「A short history of sweat gland biology」
秦 維郎/編「腋臭症の治療」克誠堂出版，1998年5月
「新たな腋臭菌と腋臭を抑制する素材の発見」
「What is the anatomy of the human eyelid?」